2021/10/26 19:42

切っ掛けは瀬戸川さんがMITTELMODAに当店で買い取った卒業制作のジャケットとパンツを持って行きたいというご相談からでした。
ただ、リースするにしても通常より長い期間になりますので交換条件的にイタリアから戻ってきたらコラボアイテムでも作りましょうということで始まりました。


【何を作ろう?】
ちゃんとした服にすると大掛かりになってしまいますし、かと言ってTシャツ等ですとちょっと物足りない。ということで私の中で最初に思いついたのは自分も割りと好きな帽子でした。

【素案】
この画像が私が描いた素案です。


最初は自分が欲しいと思う漠然としたデザインを描きました。

[デザイン]
最初に柔らかいストローハットのような形の帽子で頭の部分が開いてそのままスヌードになる、というものを考えました。
次に1型を複数個にするか何型かを一点ずつにするか考えながら適当にイメージを文字にしました。その際に瀬戸川さんの過去の作品から「売り物にならない毛皮」を使うことを思い付きました。
ただ、つけ心地が悪そうなので基本は綿素材で部分的に毛皮がくっついているキメラのようなデザインがしっくり来ました。そしてそれがテレビ番組か何かで度々見たペンギンの姿を思い起こさせたのです。
そこでそのペンギンの姿を調査すると羽の生え変わり「換羽(かんう)」の時期のペンギンだということが分かりました。その瞬間このコロナ禍における変化やファッション業界の転換期のようなものとリンクしたのでストーリーは一旦その方向性で進めることとしました。因みにこの時点で「MOLTING HAT」という名称は決まりました。

[三原則]
次に決めたのはこの制作における以下のような三原則です。デザイン時点で既に意識しているものもありますが改めて整理することでその後の方針がブレないようにしました。

・副資材含め全て余った素材であること
・複数の用途が可能で機能的であること
・長く愛用出来ること

今回はこれが具体的に以下のような条件となります
[条件]
・今回のために新たな材料を買わない
・帽子だけでなくネックウォーマーにも使える
・洗濯可能
・最初からボロであることで気を遣わずに使用出来る

【ミーティング】
アトリエにて瀬戸川さんと具体的な材料やデザインについて決めていきます。
デザイン画の実現性から材料の制約などについて話し合い、長い耳当て(アシンメトリー)付きのバケットハットのようなものに決まりました。毛皮についてはアトリエにないこともありましたが売り物にならないものとは言え毛皮はそれなりに高価になるので手に取りやすい価格で提供出来なくなるので止めました。

帽子部分は別プロジェクトで没となったサンプルを使用し、耳当てやマフラーになる部分には同じ生地の残布を使うことに。また耳当て部分は残布の形を出来るだけそのまま活かし、どうしても邪魔な布はデザインとして取り込む方針となりました。
瀬戸川さんとはそこまで話をして詳細なデザインについてはセンスにお任せしました。

【ストーリーの仕上げ】
瀬戸川さんとの打ち合わせでは私がリサーチして考えた今回のコンセプトに当たるストーリーについても話しました。

[持続可能性とペンギン]
以下の画像にあるとおり南極のペンギンは地球温暖化の影響で大きく減少する一方、一部では大繁殖の可能性もあるようです。




少し飛躍しますがこれをサスティナブルに置き換えると良い(または悪い)とされている方法が必ずしも良い(または悪い)結果に繋がるとは限らないということです。
例えばリアルファーを完全に止めることはその生産者の仕事を奪います。またフェイクファーの製造工程で多量の工業排水が流されるという問題も一部で指摘されています。

つまり持続可能性というのは局所的なひとつの視点だけで考えると大きな過ちを犯しかねません。瀬戸川さんが作品を通して伝えてきたサステナビリティはそういった問題を踏まえたものです。
なので地球温暖化によるペンギンの生態の変化は「温暖化により恩恵を受ける生物は全くいないのか?」ということを考えさせる点において少し似ているように感じたのです。

[多様性とペンギン]
ここまで考えたときにコラボの中で当店として担うべき部分は何だろうという壁がありました。そこで以下の画像のペンギンのオス同士のカップルが登場します。


ある動物園内で観察されたことらしいですが、これは自然界でも発生していることのようです。
当店がジャンルレスなセレクトをしているのは正に多様性を尊重したいからです。メンズとレディースを明言しない(便宜上言うことはあります)のもそういった想いからです。LGBTQ+に関連する諸問題を一気に解決することは出来ませんが衣服くらい好きに着て良いと思います。それくらいなら解決の手伝い程度かも知れませんが当店にも出来ると信じています。
こういった流れで当店として担うべき部分を多様性としました。

【コラボアイテムに込めたもの】
以上のことを踏まえるとこのコラボアイテムには以下の考えが込められています。
・COVID-19を切っ掛けとする社会の変化
・ファッション業界の転換期
・サステナビリティ
・多様性
これらのことを踏まえてお手に取って頂ければ幸いですし、このアイテムを切っ掛けにコンセプトのうち何かひとつでも興味を持って頂ければ幸いです。